これから「街の本屋」と「小さな版元」が生き残るためには、を考える(前編)

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先日のこちらの報を受けて、いま思っていることを書いておこうと思います。

日経の会員ではない人は申し訳ないですが、とにかく採算の取れない書店を閉店させるということです。

 

これをみて、これまで疑問だったというかうまく点と点が繋がっていなかったものが

悪い意味で線になってしまいました。もちろん推測の域を出ませんが。

 

それは、結論から言うと、「取次は、大型あるいは都心部などの、自分たちが効率よくコストをかけずに相手できる書店以外は潰したい」ということになります。悪意のある言い方をあえてしますが。

 

以前から、パターン配本や実績配本などと呼ばれる、書店のランクによって配本がされる仕組みに疑問を抱いていました。ランクとは、簡単に言えば売り上げの大きさです。それはお店全体の売り上げでもあり、細分化してジャンルごとや、さらに細かくして著者、などと、大きい区分けから小さい区分けまであります。

要するに、「この店は先月これだけ売ったからこれだけ」「この店はこのジャンルはこれまでにこれだけ売ったからこれだけ」「この店はこの著者の過去作をこれだけ売ったからこれだけ」配本しよう、ということです。大雑把には、ですが。

 

で、この仕組み。僕の直感が間違ってたら取次さんには申し訳ないんですが。

 

あんた(取次)が「なくなってほしい」と思っている書店には配本しなければ勝手に潰れる仕組みなのでは?

 

と思ったのです。この仕組みを知って、それでどうなるんだろうと考えたときに。たぶん一年くらい前。

 

つまりですね。過去の実績で配本されるということは、配本されない=実績を作るための本がない、ということになり、その連鎖(循環)が続くとまるで食物連鎖で水銀の濃度が高まっていくように、配本ランクが下がり売り上げが下がり、ありゃまー。となるわけです。

逆にいうと、配本されるところは実績を作るための本がきちんとあるわけで、それをある程度の量売ればまた実績が上がって、より配本されやすくなる、というわけです。そりゃもとから配本されやすい大型あるいは都心部の書店は、「結果として」あるいは「必然的に」、またはこれは考えたくないことですが「故意に」、優遇されて生き残っていくわけですね。

 

例えば

現在ツイッターで多くの書店員が応援している『水族カンパニー!』

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この1巻の売れ行き次第で雑誌での連載再開が決まるということで、この本の面白さを知っている書店員さんが熱烈な応援ツイートをしています。

これが連載再開されて2巻が刊行されたときに(現実のものになってほしい...!!)、1巻のときはまったく気づいていなくて、そのタイミングで「展開したい!」と思った書店員さんがいたとして。果たしてそのお店にはどれだけ配本されるのでしょうか。地方のしかも小さい書店だった場合、注文をしない限り確実に配本されないでしょう。もしかしたら、注文しても満数入荷することはないかもしれません。最悪0です。

なぜかってそりゃ「実績がないから」ですよ。でもこれがもし、1巻の時点でバカ売れして(これからそうなってほしい...!!)、そのタイミングでこのお店が取次(版元)に注文をしても、配本(入荷)されない可能性もあるわけです。例えばこの小学館あるいはスピリッツの同系統の漫画の実績がない、著者の過去作の実績がない、などの理由で。というかそれ以前に、バズればバズるほど大型or都心部の書店に大量に配本され、地方or小さい書店には配本されにくいわけですから。

そりゃ次巻だって配本されませんよ。過去の実績によって決まるんですから。

 

でもその実績って、結局は「配本してもらえなければ作れない」んですよね。これって理不尽だし、原理的に「一度縮小し始めたら縮小し続ける」(またはその逆)ことになるのではないかと思うんです。一度でも失敗したら連鎖的に(漸次的に)ダメになっていくと。

もちろん書店の実力があれば実績は作れますし、挽回も可能なんですけど。

今回の「採算の取れないところから閉店させる」という方針と、日々感じていた取次の「大型・都心部優遇」の姿勢を併せて考えると

 

なんだ。結局取次は街の本屋なんて応援してないんじゃないか。というか、コスト(リスク)にしかならないから潰れてほしいと思ってるんですね。

 

と思ってしまったわけです。

 

 

現に、前回10冊配本の5冊売れ、そうなると今回は7冊配本の......え?なんで3冊しか配本されないの!?みたいなことも小さい書店だとあるようですし。

フェア展開したいから!と注文しても数冊入ってくればいいほう、みたいなのもあるようですし(書店が自発的に「売りたい」と思ったものくらい満数出荷しろよ、と毎回思っているのですが。そのくせいらないもんは大量に配本されるし)。

 

 

とにかく僕は、今回、「もう取次に頼っていてはだめなんだ」と、ついに本気で思ってしまったわけです。これまでは「このままじゃだめだけど、もしかしたら。それに取次にはなくなられたら困るし」くらいには思っていましたし、その思いで実際に入社もしましたしね。

 

これで晴れて、名実ともに取次から「離れた」ということになりました(月が変わって正式に退職となりました!!祝・無職!!)。

(配属希望書に「街の書店が復活する手助けがしたい」と書店営業で希望を出したら、出版業界と関係ない仕事をする会社に出向になったのも、なんだか納得がいってしまうのでした)

 

 

 

でもこれは、チャンスだと思っています。

取次に依存する体制から脱却して、地方の、小さな、街の本屋が逆襲するための。

あるいは同じように取次から見放されていた「弱小」版元の。

 

これからの大手取次は、同じように「大きな」ところにしか手は差し伸べてくれないように思えます。じゃああんたら抜きでやってやるよ、と。大きくて効率よくてコストがかからないほうのはそっちでしっかりやってくれ。そうじゃないほうはこっちがなんとかしてやるから、じゃあな、元気でやれよ。そういって別れを告げよう。

 

 

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この名曲を思い出したので貼っておきます。

 

後編に続きます。