「ちんぽ」にはじまり「ちんぽ」におわるステキオブザイヤー2017

普段は一年を振り返るなんてことはしないのだが今年はそうもいかない。はじめての海外経験で骨折をしたり(13歳・サッカー合宿)、鶴岡八幡宮の御神木が倒れた朝に遭遇したり(17歳・倒れてるから有名なのかな?などと思いスルーして帰宅した)、その他にも数々のユニークな経験をしてきていながらこれまで「今年を振り返る」ことはしてこなかった。そんなあたしが振り返ってしまうほどの2017年とはいかに。以下、月ごとに雑記。最後にまとまらないまとめ。

 

1月

奨学金返済免除のポイント稼ぎのための論文を、一番大事な修論提出後から10日ほどで書き上げる(修論は12月中にほぼ完成させた)。がんばった。内容を大雑把に記すと、オーウェル1984年』とこうの史代この世界の片隅に』を、「過去や記憶についての描かれ方の違い」という観点から考察し、その違いが生み出す結末の違いなどを、現代社会の現状を踏まえながら調子に乗ったことを書いた。とにかくノリに乗っていた。完全なるサーファーキング、相当愚かなメメメメメリケーンだった。

 

そのクソみたいな論文を書き上げた開放感を肴に、こだまさんの『夫のちんぽが入らない』を読んだ。王様気取りのメメメメメリケーンは、好きな女の子を目の前にしたヤンキーのように毒気を抜かれた。これは今年のベストオブベストだ。今年の「超俺的最高de賞 Hey, メーン?」の一位は確定してしまった。そう思った。そしてそれは間違いじゃなかった。いまこれを書いている時点で更新する作品は出てきていない。

 

 

2月

何をしていたか全く思い出せない。下旬の誕生日あたりに温泉に浸かっていたような気がするが、それは前年のことかもしれないし、もしかしたら来年のことかもしれない。唯一覚えているのは村上春樹の新作の表紙がダサかったこと。

 

 

3月

京都へひとり修了旅行。三月書房、ホホホ座、恵文社、誠光社などなどを回る。修了証書を受け取る。卒業ライブに出る。リードギターとドラムは5歳下の大学一年生。ちなみにギターの彼は留年して今年2回目の一年生をしている。かっこいい。コピーしたのは星野源。今日はじめてドラマを見た。細切れに。とにかくみくりさんがステキ。

市ヶ谷の書店での勤務を終える。出版業界に迷い込むきっかけとなった原点。正直やめたくなかったからギリギリまで勤務した。ほぼレジ業務だけで棚を触ることは基本的にはなかったけど、ここで働いたことが確実に「はじめの一歩」となっている。感謝。

我らが千葉ロッテマリーンズはオープン戦優勝。期待に満ち溢れる月となった。

 

4月

取次入社。研修。5月の配属決定以降、数ヶ月間の記憶がない。

 

 

 

というのは嘘だが、正直いまここで振り返ってみて、春に取次に入社していたという実感がない。実際に「取次の仕事」をさせてもらえなかったのだからそうなるのも必然かもしれないがー。詳細はあれだ。もうめんどいから書かない。愚痴と嫌味はもう十分に吐いた。

なお、この時期に我らがマリーンズも今季終了が確定した。

 

5月31日

上司に退職を願い出る。上司や本社人事との数回の面談ののち、6月末での退職が決定。

6月中旬より人生で最初で最後となる可能性の高い有給休暇というものを行使。しかもフルに。ついでにこれまた最初で最後になる可能性の高いボーナスとやらも少額ながらもらう。ちょっとおもしろかった。奨学金返済免除の通知も来た。調子に乗った。

我らがマリーンズは世界チバ遺産・井口資仁が今季限りでの引退を発表。

 

7月1日

プー(無職)になる。それでも己の欲望のままにハチミツを貪り食う、友達であるはずのウサギだか豚だかよくわからないピンクの奴を酷い目に合わせてまで人生を謳歌しようとするお腹の出ているクマみたいなおっさんになるよりはマシだと言い聞かせる。何を言っているかはよくわからないし深い意味も深イイ意味もない。

7月は本当に考え抜いた1ヶ月だった。この先どうしたいのか。どうすれば、自分の進みたい方向へいけるのか。近道である必要はなく、遠回りでもいいから目指す方向へはいける道はどれか。正直、精神状態は不安定だったというか、結構辛かった。自分から会社をやめておきながら自信がなくなりかけていた。

 

7月下旬

覚悟を決める。学部時代にやりたいことが見つからず修士に進み、やっと見つけたやりたいこと、ができる「はずだった」会社をわざわざやめておいて、「自分が面白いと思えない」ことをしちゃいけない。「ふつう」の道は似合わない。大変でも、面白い方に行こう。ええい。

 

ということで

8月

「ト」ではじまる直の版元と、「と」ではじまるチェーン書店の「志」ではじまる支店で働きはじめる。もちろん正社員ではない(ちなみに取次の方も社員見習いみたいなのだったからこのままいくと正社員経験なしで死ぬことになる。最高)。同時に自分の本屋「lighthouse(ライトハウス)」も準備をはじめる。

我らがマリーンズは伊東監督が今季限りでの辞任を発表するも、チームの調子はわずかながら上向く。

 

9月

当初計画していた形でのライトハウスが実行できなくなる。暗雲立ち込めるも思いついたのはモバイルハウス本屋だった。ちょうど下旬に伽鹿舎ひなた文庫のイベントもあるし、熊本行って坂口恭平氏のモバイルハウスを見てこよう、なんなら話も聞けるかな?などと勢いで氏にメールを出す。要約すると、いまは自分の作品に集中しててイイ感じだからごめんね、でも応援してるよ、という「らしさ」前回の素敵な返事をもらう。嬉しかった。

とはいえ熊本に行かない理由はないのでジェットスターでびよーんと。とりあえずくまモンだらけで心配になった。イベント前に橙書店に行ったら坂口氏が執筆作業の真っ最中だった。店主ととても楽しそうに作品談義をしているので、邪魔してはいけないと声はかけず。

とにかく熊本は最高だった。熊本から帰る日、我らがマリーンズは井口さんの引退試合。井口さん自ら打った9回裏の同点ツーランを熊本空港行きのバスでリアルタイムで観る。その後サヨナラ勝ちを決めるシーンも空港内での待ち時間でリアルタイム観戦。そのままセレモニーを観て搭乗。今年のマリーンズの調子と自らのそれが同期していることを確信。

 

10月

ライトハウス出張所として千葉市浜野の美容室ミューテさんで常設棚を開始。店主さんが前にいた店舗時代からの付き合いで、もう10年近くなる。数年前に独立して、それからも僕は店主さんのとこに切ってもらいに行っていて、そんな縁から棚を置かせてもらえることになった。浜野には書店がない。千葉や蘇我に出るか、近くても隣駅(とはいえ外房線はそれなりに駅間隔がある)まで行く必要があり、チャレンジするのにぴったりだと思った。現状「売れている」とは決して言えるものではなく、今後の課題の一つである。幕張で準備している「店舗」がオープンしたらもう少し自由にやれるので(在庫の移動が可能になるなど、選書の幅が広がる)、とにかくいまは「この美容室には購入可能な本が置いてある」ということを、美容室の常連さんに知ってもらう期間と捉えている。

なお、我らがマリーンズは井口さんが監督に就任。伊東監督も本当にありがとう。お疲れ様でした。

 

11月

小屋のあれこれをはじめる。設計だったり、そもそもの畑の整地だったり。そのあたりの詳細は店舗ツイッター(@book_lighthouse)やHP(本屋lighthouse)などで。

まあとにかく進まないが、それでもようやっと整地作業が終わりを迎えつつある。伽鹿舎のWEB片隅での連載でもテキトーな経過報告をしていく予定なので、そちら(» 濁点遊撃隊 || WEB文藝誌 片隅-かたすみ- 伽鹿舎)も読んでもらえるとありがたやありがたやー。早ければ年明けに更新されるかと。

「志」のつく書店では本格的に外国文学、特に文庫の棚を担当しはじめる。久禮さんの『スリップの技法』も読み、その手法を一部取り入れながら試行錯誤の毎日を現在進行形で。ほんのちょっとは効果がではじめたと思いたいが、あがってくるスリップの大半がカズオイシグロ作品だったので、正確なところはよくわからない。

我らがマリーンズは台湾遠征で好結果を残す。

 

12月

イシグロが落ち着いてきたのに伴ってスリップも減少。まあまだまだ整地段階というか、そんなに早く効果が出てしまっても怖いというか。調子に乗らないためにもこれくらいがちょうどいいかと。とはいえ面白い買い方をしてくれる人や、高校生とかが買ってくれたりすると嬉しい。この前も柴田元幸訳の『ハックルベリー・フィンの冒けん』(研究社)をおそらく高校生くらいの女の子が買ってくれて、店長と舞い上がった。3000円くらいする単行本だよ?また来て欲しい。絶対に後悔させない作品を揃えた棚を作っておくから。

また、店長と共作で「dystopiaフェア」もスタートさせた。そうそう、いま思い出しましたけど、4月の不忍一箱古本市で「dystopia books」の屋号でヒトハコデビューしまして、しかも不忍くん賞までもらってしまっていたのでした(やはり記憶が抹消されている)。翌日配属発表で天国から地獄でしたが。ははっ。

とにかくそれを屋号だけ引き継ぐ形ですが(選書イメージは変えました)、実店舗しかもふつうのチェーンで展開するという男前ぶりを店長が見せつけてくれたことにまずは感謝です。ヒトハコの時は「ディストピアの支配者が禁書・焚書にしたくなる本=これを読むとディストピア(=支配者にとってのユートピア)が打破されてしまう本」というテーマで、それなりに「やわらかい」イメージも持ち合わせていた(つもりの)ものでした。今回はもっと直球に、「ディストピアが成立する過程(順序は一定ではないけど)をテーマ別に提示し、そのテーマごとに選書した本を並べることで、現実世界がディストピア化しつつある(というかもうなっている)ということを可視化する」ことを目指しました。つまりかなり「重い」です。それでも、少ないながらもレジに本を持って来てくれる人がちゃんといて、「いいフェアだね」と言ってくれた人もいるようです。うれしい。そしてそういうお客様をこれまでつなぎとめていた店長にリスペクトを。もちろん「こういう本を読む人=良いお客様」というわけではないけど。そこは間違えちゃいけない。くだらない本も「良い本」だからね。

また、上旬にはこだまさんの新刊『ここは、おしまいの地』が刊行されるとの報。そのちょっと前にも『ちんぽ』の実写・漫画化決定の報があり、2017年はちんぽにはじまりちんぽに終わる、字面的には最低だが内実はステキオブザワールドな年となった。

なお、我らがマリーンズは外国人の補強をはじめた。最強コーチ陣も結成され、来季に期待のもてる締めくくりとなった。

あとタイに行った。不躾なわんころだらけで最高だった。

 

 

 

とにかく予想外の連続だった。マリーンズの惨敗はもちろんのこと、まさか自分が「なぜ新卒はすぐに会社を辞めるのか」的な存在になるとは思っていなかった。だって同期の中で一番やる気に満ち溢れている自信があったから。だからこそやめたのだけど。こういうテーマの本を書く人にはこの実例も取り上げて欲しい。

 

そしてあれよあれよと、気づいたら畑を整地している。しかもそこで本屋を「建てよう」としているのだ。真っ当ではない。でも、真っ当なことをしていたらやっていけないと、言い聞かせて生きている。出版業界としても、そして自分自身の生き方としても。いや、正確には真っ当なことと「されている」こと、か。

 

来年は今年以上に覚悟の年となる。とんでもない事件が起こらない限り(得てして起こってしまうのだけど)、来年のうちにはライトハウスも開業する。そうなったら今まで以上にフル回転となる、頭が。身体はゆるりと。

 

そして「志」のつく書店の方でも、大きな展開が待ち受けている。こだまさんの新刊。思い切って30冊、事前指定を頼んだ。減数されそうだけど。

ここまで大きな数(書店員歴は短いし、店の規模も小さいので)の注文ははじめてだし、正直怖さもある。売れ残ったら返品すりゃいいじゃん、という話ではないからだ。こちらがそういう気持ちでやっていたら、この負のスパイラル、つまり書店は減数を見越して多めに注文する、版元と取次はそれを見越して減数する、本当に「その数が欲しいと思っている書店」も減数される、または減数されずに思ったよりも多く来ちゃう(から欲しい店舗に配本されない)、などといった現象がなくならない。あるいはくだらない「騙し合い」と言った方がいいか。誰が得するんだよこれ。一番悲しむのは読者だし。

とにかく僕は30を売り切るつもりで「30冊でお願いします」と頼んだ。希望数ですがよろしいですか?と聞かれたので、「はい、希望数です」と答えた。たぶん両者の間で「希望」の意味は食い違っている。怒りは生まれて来たけど、現状どうすることもできない。僕も「結果」を残していないから。

だからとにかく入荷して来た数は全部売り切るようにする。できるだけ早く。そしてすぐに追加を頼む。重版中です、返品待ち保留です、などの返答がきたときこそ、怒りをぶつけるときだ。「だから30欲しいと言ったんだ」と。その小さな積み重ねが、この「頭の悪い駆け引き」を終わらせる道だと思う。近道かどうかは知らんけど。だからどうにかして売る。いや、読んでもらう。

こだまさん本人にもいろいろと力を貸してもらっている。あたしはしあわせものすぎる。だからこそ、責任を持って読者に届けたい。

ていうか、今年一番の予想外はこれである。年初にはただの「著者−読者」の関係だったのが、いまや共闘する関係になっている。ついったらんど、とんでもない世界である。

 

 

 

 

2018年はどんな「予想外」が待ち受けているのか。予想外を結果オーライにするのが人生の醍醐味である。いまいいこと言った風な顔をしているので、いいこと聞いた風な顔をしてください。

なお、マリーンズに関しては期待通りになって欲しい。もちろん優勝。