『1984年』関連書籍フェアを妄想する
タイトルの通りですが、いくつか紹介しようかなと。
トランプさんが大統領に就任してから米国では『1984年』が売れているとか。
日本でも、なんとも皮肉なタイミングで早川書房さんの「ディストピア関連フェア」が、『虐殺器官』の映画公開に合わせて展開されていて。
そして個人的には、大学院での研究テーマがディストピア(ユートピア)文学で、しかも『1984年』で修士論文を書いたこともあり
なんだか嬉しいような困ったような...(だって世界がディストピアに向かいつつあると皆が感じているわけですから)
それではなぜディストピア文学が誕生するのか。そして読まれるのか。
それはもちろんディストピアの到来を防ぐためです。
『一九八四年』(早川書房)の帯で(アジカンの)後藤正文さんが書いているように
”実現しない(あるいはさせない)予言書として”
ディストピア小説は存在しているのです。
さて、それでは本題に入ります。
1. 『動物農場』(ジョージ・オーウェル,早川書房)
早川epi文庫で新訳が出ました(2017.1)。『1984年』の前日譚というか、入門編としてオススメです。こちらを読んでから『1984年』に進むとより一層理解しやすいかと思います。分量も少ないので読みやすいです。
2. 『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー,早川書房)
こちらも同じタイミングで新訳出てます。僕は光文社古典新訳文庫から出ているもので読みましたが。
この小説の肝は「一見ユートピアに思える」ところです。「すばらしい」新世界に潜む違和を、ぜひとも感じていただければと。
岩波文庫から出ていますが現時点では絶版です。すぐに読みたい場合は古本や図書館でお願いします。
1920年代にロシアで執筆されましたが、もちろん本国では発禁処分になりました。つまりそういうことです。
こちらと『すばらしい新世界』『1984年』は3大ディストピア小説と称されています。
とりあえずこの3作を読んでおけば間違いないです。そのためにも『われら』を復刊させましょう。笑
ほかにも『時計じかけのオレンジ』(アンソニー・バージェス,早川書房)(http://www.honyaclub.com/shop/g/g12506310/)や『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ,早川書房)(http://www.honyaclub.com/shop/g/g16313494/)などもありますね。
前者は映画も秀逸ですし(結末は少し違いますが)、後者は本好きには居ても立ってもいられない作品でしょう。
ここからは趣向を変えます。小説以外の、「世界を考えるのに必要な本」を。
4. 『隷従への道』(フリードリヒ・ハイエク,日経BP)
第二次大戦あたりのナチスを中心に全体主義の恐ろしさを検証しています。残念ながら、いまの世界状況(そして日本も)はこの本に書かれていることと一致する部分が非常に多いです。このタイミングで新たに邦訳されたのは意味があると思います。
5. 『何度でもオールライトと歌え』(後藤正文,ミシマ社)
自分が住む世界に対して無関心でいること、そして知っていながらも声を上げないこと。そんな姿勢ではディストピアがやってきてしまうことを再認識させられます。「音楽に政治を持ち込むな」なんて言っていられる平和な時代はもう終わったのではないでしょうか。
もうひとつミシマ社から。イスラム世界とキリスト世界の軋轢が大変なことになっていますが、恐怖(と憎悪)の源は「無知」から生まれるのであって、この本を読み終えたとき、そこには少なくともそういった感情は生まれないのではないかと。
7. 『夫のちんぽが入らない』(こだま,扶桑社)
どこがディストピア関連なのかと思うかもしれませんが(いやたしかに「入らない」のはディストピアかもしれないけど...)、この世界を住みにくくする原因のひとつである「ふつう」についてのお話だと僕は解釈したので。
絶対的な「ふつう」を追求し、その「ふつう」を皆に求めることは、その「ふつう」に当てはまらない誰かを傷つけ迫害することになる。あとがきにある、教え子の現在についての著者の受け入れ方に、僕はこだまさんの凄さを感じました。並大抵の人には不可能な受容の仕方ではないでしょうか。彼女(教え子)にとっての「しあわせ」「ふつう」をそのまま受け入れる。感嘆です。
最後はこちら。この作品のテーマは『1984年』と同じです。
過去、そして記憶をどう扱うか。
その扱い方の違いが、それぞれの結末に違いを生み出しています。
とてつもない作品です。読んでください。あるいは観に行ってください、映画を。
オススメは映画→原作→映画です。
あえて説明はしません。読めば(観れば)わかります。
わからなかった人は、想像力を鍛えなおしてください。
最後に。
ディストピアを生み出す原点は「無知」です。
知らないものに対しては、理解も寛容も生まれません。
そのものを知ること。
そこから想像力の助けを得て共感が生まれ、受容と赦しが生まれます。
まだまだ紹介したい本はありますが、忠犬カタコリイヌが顔を出しているので終わりにします。
はやく自分のお店を持って(あるいは社員になって)、こういうフェアを展開したいなーという妄想でお送りしました。
この妄想をカタチにしてくれる素敵な方がいらしたら、許可なんていらないのでやってください。笑